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固定電話のIP網移行:100年続いた電話網の大変革

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背景と目的

NTT東日本およびNTT西日本は2024年1月、固定電話(加入電話)の公衆交換電話網(PSTN)をIP網(IP=インターネットプロトコル)へと完全移行した。従来の電話網は、電話交換機が発信者と受信者の間に専用の回線を割り当て、音声を伝達する回線交換方式を採用していた。しかし、携帯電話の普及やインターネット通信の発展により、固定電話の契約数は2000年度の約6300万件から2016年度には2172万件へと大幅に減少。さらに、2025年頃に中継交換機や信号交換機が維持限界を迎えることから、NTTは2010年にIP網への移行方針を表明し、準備を進めてきた。この移行は、設備の老朽化対応と通信コストの最適化を目指すもので、100年以上続いた日本の電話網の仕組みを根本から変える歴史的な転換点となる。

IP網の仕組みとメタルIP電話

IP網移行後の固定電話サービスは「メタルIP電話」と呼ばれる方式で提供される。この仕組みでは、利用者の電話機からNTT局までの加入者線(メタル回線)は従来通り使用されるが、NTT局内に設置された変換装置で音声信号をIPパケットに変換し、IP網を通じて中継する。従来の回線交換方式では、交換機が通話ごとに専用の回線を確保していたが、IP網では音声をデジタルデータとしてインターネットプロトコルで伝送する。これにより、距離に応じた通話料金の変動がなくなり、全国一律で3分あたり9.35円(税込)の料金体系が実現した。なお、利用者側の電話機や回線設備は変更の必要がなく、既存の電話番号も継続して使用可能である。

移行の影響とメリット

IP網への移行は、利用者にとって手続きや工事の負担を伴わない点が特徴である。NTTの設備内でのネットワーク切り替えにより、電話機やFAXなどの機器はそのまま使用できる。また、通話料金の全国一律化により、遠距離通話のコストが抑えられるようになった。特に、企業においては、従来の固定電話網に依存していたEDI(電子データ交換)システムなど一部サービスの終了に伴い、新たな通信方式への移行が必要となるが、IP電話サービスの導入により、さらなるコスト削減やリモートワークの促進が期待される。一方で、IP網はインターネット回線を利用するため、通信環境によっては通話品質が不安定になる可能性がある。ただし、光ファイバーを活用した「ひかり電話」など高品質なIP電話サービスは、固定電話と同等の安定性を提供する。

注意点と今後の展望

IP網移行に伴い、「固定電話が廃止される」「今なら工事無料」といった便乗勧誘が問題となった。国民生活センターには詐欺的な勧誘に関する相談が寄せられており、NTTは公式な情報源からの確認を呼びかけている。また、ADSL回線を利用していたIP電話サービスは、移行に伴うアナログ回線のサービス終了により光回線への切り替えが必要となる。総務省は、移行の円滑化を図るため、電気通信事業者による利用者保護の取り組みを監視し、双方向番号ポータビリティの導入など新たな制度整備を進めている。今後、IP網の普及は、ブロードバンドサービスの拡大や多様な通信手段の提供を加速させ、固定電話の役割を再定義する契機となるだろう。

図表:固定電話のIP網移行の仕組み

従来の固定電話(PSTN) メタルIP電話(IP網)
回線交換方式:交換機が専用回線を確保 IP方式:音声をIPパケットに変換し伝送
通話料金:距離に応じて変動 通話料金:全国一律(9.35円/3分)
設備:中継交換機、信号交換機 設備:変換装置、中継ルータ
利用者負担:電話加入権、工事費用 利用者負担:手続き・工事不要

注:表はIP網移行の主要な違いを簡略化して示す。

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